【1】ポパイ事件 その1 東京地方裁判所 昭和49年4月19日 昭和48(ワ)7060 差止請求事件
【1】ポパイ事件 その1 東京地方裁判所 昭和49年4月19日 昭和48(ワ)7060 差止請求事件
主 文
1 被告は、別紙第一、第二各目録記載の各標章を附したアンダーシヤツを販売、
頒布してはならない。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 この判決は、仮に執行することができる。
事 実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決及び主文第一項請求部分について
の仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
「一 原告の商標権
原告は、次の商標権(以下「本件商標権」という。)を有する。
登録番号 第五三六九九二号
登録商標 別添商標公報写しのとおり
出願 昭和三三年六月二六日(商願昭三三-一七九五七)
出願公告 昭和三三年一〇月二〇日(商標出願公告昭三三-一六六九六)
登録日 昭和三四年六月一二日
指定商品 第三六類「被服、手巾、釦紐及び装身用ビンの類」
二 被告の標章
訴外オツクス株式会社は、別紙第一、第二各目録記載の標章(以下、第一目録記
載の標章を「乙標章」、第二目録記載の標章を「丙標章」という。)を附したアン
ダーシヤツを製造し、被告はこれを卸販売している。
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<原告の主張>
三 被告の本件商標権侵害行為
乙、丙各標章は、以下に説明するとおり本件登録商標に類似するから、被告の前
記行為は本件商標権を侵害するものとみなされる。(商標法第三七条第一号)。
(一) 本件登録商標の構成
本件登録商標は、人物が帽子をかぶり、アンダーシヤツを着て、腕の一本に錨の
マークをつけ、腰をまくり上げ力瘤を出しており、マドロスパイプをくわえている
のが主要な特徴で、これが「POPEYE」の欧文字又は「ポパイ」の片仮名の記
載と相俟つてポパイのイメージを形づくつている。
(二) 被告の標章の構成の特徴
1 乙標章は、人物が帽子をかぶりアンダーシヤツを着て腕の一本に錨のマークを
つけ、腕をまくり上げ、力瘤を出しており、かつ、「POPEYE」の欧文字を表
示してある。
2 丙標章は、乙標章同様、人物が帽子をかぶり、アンダーシヤツを着て腕の一本
に錨のマークをつけ、腕をまくり上げ、力瘤を出しており、かつ、「ポパイ」の片
仮名文字が表示されている。
(三) 本件登録商標(以下この項において「甲」という。)と乙、丙各標章との
対比
1 乙標章は、甲と次の点について違いがある。すなわち、
(1)人物の顔の向き
が甲ではやや左向きであるのに対し、乙標章では右を向いていること。
(2)甲で
は、人物の足がピンと伸びているのに対し、乙標章では、足をよじるようにしてい
ること。
(3)甲には、人物と文字のほかに何も表示されていないのに対し、乙標
章では、サンドバツグが人物のそばに表示されていること。
(4)甲では、「PO
PEYE」の欧文字と「ポパイ」の片仮名が表示されているのに対し、乙標章で
は、「POPEYE」の欧文字のみが表示されていること。
乙標章は、甲と以上のような相違点があるけれども前記、人物が帽子をかぶり、
アンダーシヤツを着て、腕の一本に錨のマークをつけ、腕をまくり上げ、力瘤を出
している主要な特徴において甲と共通し、「POPEYE」の欧文字が一致してい
るから、両者は、外観、称呼、観念において類似している。
2 丙標章は、甲と次の点において違いがある。すなわち、
(1)甲では、人物が
立つているのに対し、丙標章では、人物が玩具の蒸気機関車に座つていること。
(2)甲の人物は右腕を振り上げているのに対し、丙標章では左腕を振り上げてい
ること。
(3)甲の人物は一人であるのに対し、丙標章では、女子(ポパイ漫画で
はオリーブとして登場している)一名と子供(ポパイ漫画に登場している)一名が
表示されていること。
(4)甲には、人物のほかなんらの表示がないのに、丙標章
では、樹木が二本表示されていること。
(5)甲には、「POPEYE」の欧文字
と「ポパイ」の片仮名文字が表示されているのに対し、丙標章では、「ポパイ」の
片仮名文字が表示されているだけであること。
丙標章は、甲と対比して、右のような相違があるけれども、乙標章との対比に記
載したとおり、その主要な特徴において甲と共通し、「ポパイ」の片仮名文字の表
示において一致している。そして、丙標章の人物三名の表示は、観念においてポパ
イのイメージを強化して、むしろ甲と丙標章との類似性を強化しており、両者は、
外観、称呼及び観念において類似している。
四 請求
よつて、原告は、本件商標権に基づいて、被告に対し、別紙第一、第二各目録記
載の標章を附したアンダーシヤツを販売、頒布してはならない旨の裁判を求め
る。」
と述べ、立証として、甲第一号証ないし第四号証を提出した。
<被告の主張>
被告は、本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものと見做された被告
提出の答弁書の記載によれば、請求の趣旨に対しては、「原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁は、
「一、原告主張の本件商標に関する件は知らない。二、本件の如きわずらわしい事
情がありとすれば、当方としては、これにかかわりたくないから、ことが判明する
までは、本件の商品は取り扱わない所存である。」というのである。
<裁判所の判断>
理 由
公文書であるから真正に成立したものと認められる甲第一号証(本件商標権登録
原簿謄本)、第三号証(本件商標公報)によれば、原告が本件商標権を有すること
が認められ、被告が、乙、丙各標章を附したアンダーシヤツを販売し、頒布してい
ることは、同被告において明らかに争わないところであるから、被告は、右事実を
自白したものと見做される。
ところで、被告は、本件のようなわずらわしい事情があるとすれば、事が判明す
るまでは、右商品を取り扱わない所存であるというのであるところ、その意は、事
が判明すれば、再び乙、丙各標章を附したアンダーシヤツを取り扱う意図を有する
ものであるということが窺われるから、仮に現在、被告が右アンダーシヤツを取り
扱つていないとしても、将来これを販売頒布するおそれがあるものといわなければ
ならない。
そこで、乙丙各標章が、本件登録商標に類似するかどうかについて検討する。
まず、前記第三号証(本件商標公報)によれば、本件登録商標は、「POPEY
E」の文字を上部に、「ポパイ」の文字を下部にそれぞれ横書きし、右各文字の中
間に、水兵帽をかぶり、水兵服を着た人物ポパイが口にマドロスパイプをくわえ、
錨を描いた左腕を胸に、右腕に力瘤をつくり、両足を開いた状態にあらわされた、
文字と図形との結合から成るものであることが認められる。
乙標章は、上部に大きく「POPEYE」の文字を横書きし、その末尾の「E」
の文字から、紐で、苦痛の表情を表わしたサンドバツグが下げられ、そのサンドバ
ツグの左側で前記「POPEY」の文字部分の下方に、船員帽をかぶり、水兵服を
着て、口にマドロスパイプをくわえ、両方の手及び前胸部をふくらませ、左前腕部
に錨を表わし、右眼を閉じ、両膝をくつつけて、サンドバツグを殴り終つた様子を
あらわした人物ポパイの図形が表わされ、右全体の図形の右下方には、「● Ki
ng Features Syndicate.」と表示された、文字と図形から
成るものであることが認められる。
両標章は、野原の線路上に、前面に「POPEYE」の文字を横書きした玩具の
蒸気機関車が描かれ、右蒸気機関車の後ろに、人物ポパイが乗り、ポパイは、頭に
白い水兵帽をかぶり、水兵服を着て、口にはマドロスパイプをくわえ、両方の手及
び前腕部をふくらませ、左手を上に向けて開き、右前腕部に錨を表わし、ポパイの
後ろには男の子が右手を開いて乗車し、地面左側にはオリーブ(女性)がポパイら
に話しかけながら立つている図を表わし、ポパイの背景には樹木二本が表わされ、
前記蒸気機関車の右下方には「ポパイ」の文字が、その下部には「● KING
FEATURES SYNDICATE.」と各横書きされた、文字と図形との結
合から成るものであることが認められる。
そこで、本件登録商標と乙、丙各標章とを対比する。
乙標章と本件登録商標とは、「POPEYE」の字体や人物の姿態が異なつてい
る。また、乙標章には、本件登録商標の「ポパイ」なる文字を欠くが、本件登録商
標にはないサンドバツグの図形と「● King Features Syndi
cate」の文字表示があり、それらの点で乙標章は本件登録商標と異なる。しか
し、両者は、いずれも「ポパイ」なる称呼において共通し、また、そこに描かれた
人物は、ともにわが国においてもポパイ漫画として著名な漫図の人物ポパイを観念
せしめる点において共通し、さらに、右のように著名なポパイを表示したものであ
るという点で全体の外観において類似するものということができるから、結局乙標
章は、本件登録商標に類似するものということができる。
次に、本件登録商標と丙標章は、ともにその表示された位置、文字の大きさに差
はあつても「POPEYE」の文字を共通にし、また「ポパイ」の字体においては
ほゞ共通するものを有し、ポパイの姿態において差異はあるが水兵帽をかぶり、水
兵服を着、口にマドロスパイプをくわえたポパイを表示している点では共通してい
る。ただ丙標章では、ポパイのほかに人物二名が表示され、玩具の蒸気機関車とレ
ール、樹木及び「● KING FEATURES SYNDICATE」の表示
がある点で右標章は本件登録商標と異なる。しかし、両者とも、「POPEYE」
「ポパイ」の文字と人物ポパイの表示がある点で同一であり、その人物も一見ポパ
イであることが明瞭に覚知されうる。そこで、結局丙標章は、前記乙標章について
説明したと同様、本件登録商標と称呼、観念を共通にし、外観において類似するも
のといわなければならない。従つて、丙標章は、本件登録商標と類似する。
以上のとおり、被告において乙、丙各標章を使用するにつき、正当の権限を有す
る旨主張し立証しない本件では、乙、丙各標章を附したアンダーシヤツを販売、頒
布する行為は、商標法第三七条第一号により原告の本件商標権を侵害するものと見
做される。
よつて、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用
の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 高林克已 野沢明 清永利亮)